経験に基づく投資の話 その㉔ 2024年8月月初の世界株価暴落 Ⅱ)歴史に学ぶ投資戦略

8月5日の日経平均の下落はブラックマンデー(1987年10月19日)よりも下げ幅が大きかったそうです。下げ率では少々足りませんでした。

筆者が体験した暴落は1987年ブラックマンデー、1990年日本のバブル崩壊、2000年ITバブル崩壊、2008年リーマンショック、2020年コロナショック、そして今回の日銀ショックです。

支店でリテール営業を35年やってきた、つまりは本社情報系の部署には縁のなかった(要は頭脳労働には向いていないと評価されていた)筆者の感覚で言うと、暴落には2種類ある、と思っています。

景気循環とそれを増幅する金融政策のミス、避けようのないミスによるもの。

もう一つは、金融システムの崩壊、崩壊危機によるものです。

金融システム危機の方から紹介しますと、古くは日本のバブル崩壊の時です。1990年の不動産融資の総量規制に端を発した株価の崩壊は、1997年、1998年の銀行・証券・保険会社の破綻まで続く、長く苦しい下落局面でした。

2008年のリーマンショックはCollateralized Loan Obligation(サブプライムローン=信用の低い人向け住宅ローンを寄せ集めて、AAA債からメザニン債、エクイティに仕立て直す、短時間では説明できないややこしい金融商品)に先進国主要銀行すべてが騙され、阿波踊りを踊った結果のショックでした。(同じ阿呆なら踊らにゃ損損・・・ ホントに損しちゃった)

この2件については筆者のみならず、金融の真実、深淵を知る者、知ろうとする者には奈落の底に引きずり込まれる恐怖だったのです。お金を預け、取引決済する銀行が信用できない世界です。社会として、どれだけ恐ろしいことかご想像ください。

お話は戻ってブラックマンデー、ITバブル崩壊、そして今回の日銀ショックです。(コロナ由来だと思っています) これらは景気循環を増幅する避けようのない金融政策のミスに起因していると思っています。

まずブラックマンデーです。80年代、米国は双子の赤字(財政赤字、貿易赤字です。懐かし~! 当時筆者は本気でアメリカが破綻する心配をしていました)に悩まされ、ドル安もあってインフレの恐怖で金利を上げていました。そこに持ってきて、西ドイツ(当時)がブンデスバンク伝統の「景気を殺してもインフレ退治」と噂されたほどのタカ派政策で、空気を読まない金利引き上げを行ったものですから、暴落の引き金を引きました。
さらに、コンピュータ売買のハシリ、と今にして思うのが当時「プログラム売買」と呼ばれた、下がってくると自動で売りを出すシステムでした。売りが売りを呼ぶ、恐ろしい下げっぷりでした。

ITバブルの序章は1996年にグリーンスパンという「マエストロ」とも呼ばれたFRB議長が「根拠なき熱狂」と表現したことに始まります。ITバブルはFRBがFFレートを上げても上げても株価上昇は止まらす、6%以上まで引き上げられました。2000年、業績の悪化をきっかけに、ついに株価は急落、2001年には利下げに転じ、エンロン破綻にいたってITバブルは終了しました。

そして今回のガラです。頭の良い先生方がいずれ解説すると思いますが、コロナに対して、世界中の中央銀行が現金をバラまいたこと、公的・民間を問わず信用を供与したこと(お金を貸したこと)、まして日本ではアベノミクスの号令のもとデフレ脱却にあらゆる手を打ったところに更にお金を撒いた(国民お一人10万円とか)わけですから、そりゃ日経平均40,000円にもなるわね、てなものでした。 
これまたコロナという中央銀行では制御できない要因が働いたと考えられます。

つまりは金融危機を伴わないガラは回復が早いことをお伝えしたいのです。ただ、日経平均もSP500も日柄整理、値幅整理とも足りません。買い出動はまだです。

日経平均で言えば週足一目均衡表でクモの下限を下抜けちゃったし、2020年3月と2023年1月の安値を結ぶサポートラインは31,000円どころにいるのですが、その1/2押しが29,555円と大台割れのところです。

アメリカに至ってはNYダウ、SP500、NASDAQとも、最近の値上がりが大きく、下げもたいしたことなく(TVで「10%さがるとコレクション(調整)だ」と言っていましたが、筆者の常識では20%下げです)トレンドラインを引っ張っても、まだ役に立ちません。 ・・・つまり、たいしたことないってことです。

VIXという指数があります。CBOE:米シカゴ・オプション取引所が計算している、SP500 のオプション取引のインプライドボラティリティです。投資家心理を表し、数値が高いほど先行き不透明感を表します。これが8月5日には瞬間65を超え、コロナ以来の高水準になりました。その後今朝には落ち着いてきて29.12です。
ただ、痛いのはスポットのVIXより、VIX先物です。これがバックワーデーションを起こしているそうです。これは先行き不安定、下落相場を示唆します。(バックワーデーション、コンタンゴについての説明は今日のところはパスさせてください)2020年2月にはバックワーデーションが52日も続いたそうです。コンタンゴに戻ると、その後大きく上昇しました。

8月はひとまず収まるかもしれません。しかし9月は中東地政学リスク、大統領選の不透明さ、景気後退リスク、と株式市場にとって、いいところがありません。

株式市場は不透明感を嫌います。
8月22日~24日開催のジャクソンホールシンポジウム、9月FOMCでの利下げ(0.25なのか0.5なのか)、が終わって11月5日大統領選、このあたりまでデコボコすることを予想します。
その後は毎年のアノマリー(説明不能な季節変動要因)通り、年末年始の株高に向かっていくと予想します。

なので調整(下落)期間は短く、3か月ほどかと思います。
新NISAで積み立てをやってる人には「チャンス!」と思って継続をお勧めします。

 

※このページに書かれた数値、内容等については、筆者ヘンデルの調べであり、意見です。記載する内容は出来るだけ正確なソースに基づくよう心掛けていますが、未確認の内容を含む場合があります。ここに記載された情報を参考に金融商品などの投資を行った場合、その結果は自己責任です。

 

 

 

 

経験に基づく投資の話 その㉓ 2024年8月月初の世界株価暴落 Ⅰ)何があったのか 

日経平均は、1987年のブラックマンデーを超える下げ幅を記録しました。ブラックマンデーをその時、現場で知る者として、当時の記憶と現在を比べてみたいと思います。

 

 

8月1日日経平均は975円安の38,126円となりました。円ドルが148円台に円高になったのが原因です。

その前日7月31日、日銀植田総裁は0.25%への利上げを発表しました。2016年1月マイナス金利スタート以来の「金利ある世界」が始まるのです。さらに引き続き金利を上げる可能性も示しました。

日本株の上昇要因のほどんどは今も昔も「円安」です。日本がついに利上げし、さらに上げる方向となると、日米金利差が縮小するということです。ましてアメリカは反対方向の「利下げ」が期待されているのです。株式市場では。

植田総裁タカ派転換をみて、筆者は「こりゃ相当、ヤバいんじゃね?」と思いました。日本の利上げこそが、ここ数年の世界株高に対する心配事項のイの一番だと思っていたのです。

何が正しいかなんてわからないのですが、筆者としては、去年の暮あたりから少~しっつ、リークもしつつ、株安の痛みに耐えつつ、引き締めへの階段を1㎝ずつ登るべきだったと思うのです。米国との対比で、今となっては遅すぎました。

たぶん世界株高を支えている「円キャリートレード」の終焉、unwind、巻き戻し、つまり「金利ゼロで円を借りてドルを買う、米国株を買う、日本株を買う(ウォーレン・バフェットのように)」という仕組みが逆回転することになるのです。

ゼロ金利解除は、借金返済のために世界の株・投資案件を売却・換金し、得た外貨を円に換える(=円高になる)ことになるのです。

(筆者の個人資産はたまたま6月24日、NVDAが高値を付けた2日後、グラリときた日にNVDAを含めAIがらみ銘柄はすべて「頭とシッポはくれてやれ」とばかりに売却していたのです。結果、これは幸いでした。でもドルのままにしておいたのは残念でした。現在ガチホにしているのは、防衛、薬、資源、インドETF積立などのディフェンシブです。今回の下げで評価額は減りましたけど。例外として、ハイテクで持っているのは、何年も前に買ったTSLAとSMHだけです)

7月31日植田総裁会見の当日夜、米国ではFOMC(連邦公開市場委員会)が行われ、パウエル議長は「9月にも利下げ」と発言しました。FFレート(米政策金利)先物は8月2日には、次回9月24日FOMCでの0.5%利下げ確率は73.5%に達しました。通常は0.25%ずつなので、大幅です。米国はbehind the curve(後手に回る)だと思われます。

8月1日、NASDAQは円キャリートレード解消の影響があったかは不明ですが、405ポイント安(2.3%安)、雇用統計が悪くてガッカリした8月2日は417ポイント安(2.4%安)、週明け8月5日は576ポイント安(3.4%安)の急落でした。金利が下がるのは、株価にはプラス要因なのですけれど。

これは金利を大幅に下げねばならないほど、景気が悪化する見込みであることを嫌気したと思われます。

リセッション(景気後退)のときの株価推移は、SP500指数でみると、1990年湾岸危機のとき-20%、2001年ITバブル崩壊のとき-26%、2008年リーマンショック時-55%、2020年コロナショック時-34%でした。これだけの下落実績なら「リセッションかも」って言われれば「株は売っておこう」になりますね。

米株安を受けてなのか、日本が震源地だからなのか、わかりませんが、日経平均はFOMC結果と植田会見によりまして、8月1日-975円(2.4%安)、8月2日-2,216円(5.8%安)、明けて8月5日-4,451円(12.3%安)という大幅ヤンチャぶりでした。

相当、信用取引で投げが投げを呼んだと思います。バブルの頃と信用取引のルールが変わっています。ネット取引がほとんどですから、証券会社は顧客の面倒は見ない、リスクを取らない、つまり強制決済が即、待っている、追証(追加保証金)を入れても維持率は回復しづらい仕組みなので、ズコバコ強制決済が次々なされる(売却が出る)わけです。

さてここで、今回の世界的ガラ(暴落)の理由を整理してみます。

①7月31日の日銀の利上げ  これから始まりました。国債買い入れの縮小だけでなく、ほんとに0.25利上げしちゃった!(サプライズ!) 日銀は財務省指示で実弾為替介入もしちゃったことだし、「円安によるインフレ」が気になってしかたなかったのでしょう。

②円キャリートレードの巻戻し  これがどれほどの規模で行われていたのかは不明です。 UBSのマルコム氏によればピーク時に少なくとも5000億ドル(70兆円)だそうです。人によっては4兆ドル!(600兆円)と云う人もいます。これは世界の株価のみならず、いろんな投資案件に、相当ショックが走るはずだと思います。

③8月2日の米雇用統計 といっても失業率が4.3%です。筆者の知る限り、歴史的に決して高い水準ではない、どころか十分に低い水準だと思います。金利が5.25%でインフレが3.0%にコントロールされている経済です。すごく良い経済状態だと思うんだけどな~。政策対応余地はいっぱいありますよね。
もちろん株価も、経済政策も「先を見る」ものですから4.3%でも「悪い数字」なんですけどね。 パウエルさんの本音は「こんなことなら7月に利下げ、しとけばよかった」でしょうね。

どうも今回のガラ(暴落)の命名は「日銀ショック」で良いかもしれません。

長くなりました。ブラックマンデーの記憶や経験則、今回の局面の見通しについては次回、といたします。

Ⅱ)投資戦略 につづく

 

※このページに書かれた数値、内容等については、筆者ヘンデルの調べであり、意見です。記載する内容は出来るだけ正確なソースに基づくよう心掛けていますが、未確認の内容を含む場合があります。ここに記載された情報を参考に金融商品などの投資を行った場合、その結果は自己責任です。